技能実習生の受け入れは、人材不足の解消だけでなく、国際協力や企業の生産性向上にもつながる制度です。しかし、初めて受け入れる企業にとっては、準備すべき項目が多く、どこから手を付ければよいのかわからないという声も多くあります。
ここでは、これから技能実習生の受け入れを検討する企業が必ず準備すべき項目を、制度理解から採用フロー、社内体制構築、受け入れ後のサポートまで、網羅的に解説します。
2027年に開始される「育成就労制度」への移行も見据えた最新ガイドです。
もくじ
技能実習制度の基礎理解
技能実習制度の目的は、「開発途上国への技能移転を通じた国際貢献」です。
企業が外国人労働者を受け入れて業務を担わせることが目的ではなく、技能の習得と移転が中心であることをまず理解する必要があります。
■主なポイント
技能実習は「実習」である
職種・作業が細かく定められている
厚生労働省・出入国在留管理庁のルールに従う必要がある
外国人技能実習機構(OTIT)の審査を経る
指導体制・安全体制が必須
受け入れ企業が満たすべき要件
技能実習生を受け入れるには、企業側にも条件があります。
■企業側の主な必須条件
過去に労働基準法違反などがない
実習生に対する適切な指導体制がある
同一職種に従事する日本人がいる(模範となる人材)
社会保険・労働保険に加入している
経営状態が安定し、給与支払い能力がある
■よくあるNG例
実習生を単純労働力として扱おうとしている
指導員不在で任せきりにしようとする
法令遵守の意識が低い
→ これらは監理団体・行政審査で必ず指摘されます。
受け入れ人数枠の確認
企業の従業員数によって、受け入れ人数枠(可能人数)が定められています。
例:一般企業の場合
常勤職員数 3名 → 実習生 1名
常勤職員数 6名 → 実習生 2名
常勤職員数 15名 → 実習生 5名
(※職種によって異なる場合あり)
人数計画を立てないと、採用計画が破綻するため、最優先で確認が必要です。
監理団体(協同組合)との契約・選定ポイント
監理団体(協同組合)は、受け入れ企業の制度適正化をサポートする重要なパートナーです。
■選定時のチェックポイント
実績があるか
対応国が明確か
日本語教育・現地送り出し機関との連携が強いか
実習生の生活サポートが手厚いか
料金体系が透明か
監査(定期訪問)が適切に行われるか
トラブル時の対応力があるか
協同組合の質によって、実習生の定着率・トラブル発生率は大きく変わります。
受け入れ職種・作業区分の適正確認
技能実習は、対応可能な職種が明確に決まっています。
また、作業内容が適正でないと、書類が通らないだけでなく、途中で実習が不認定になることもあります。
■必ず確認すべきポイント
自社の職種が技能実習制度に登録されているか
作業内容が制度上の定義に合致しているか
「実習計画(作業工程)」に沿った業務が行えるか
職場環境の整備(安全・衛生・設備)
技能実習生の受け入れでは、安全衛生が非常に重要視されます。
■事前に整えるべき項目
安全教育の実施
防護具(ヘルメット・保護具)の準備
作業マニュアルの整備
職場の危険箇所の改善
実習生が使用する設備の点検
労働災害が発生すると監査や行政処分につながるため、重要度が高い項目です。
社内体制(実習責任者・指導員)の配置
技能実習には、次の役割人材が必要です。
■配置が必須
実習実施者の責任者(管理者)
技能実習指導員(経験がある者)
生活指導員(生活面の支援を担当)
教育期間中、実習生は相談相手が必要です。
精神的フォローができる体制を整えておきましょう。
住居・生活サポート体制の準備
技能実習生には、生活基盤も企業側で確保する必要があります。
■必須準備
住居(アパート・寮)
家具・家電
Wi-Fi
通勤手段(自転車・送迎)
生活ルールの説明
■よくあるトラブル
文化の違いによる近隣トラブル
部屋の使い方の違い
自転車事故
→ 事前説明とルール化が非常に重要です。
事前の教育・研修計画の策定
技能実習は「研修」であるため、教育計画が必要です。
■必須項目
作業の基礎研修
安全教育
日本語教育(N4~N3)
生活ルール
業務手順書の説明
定期評価の実施
教育計画がない企業は、受け入れが認められません。
書類申請・行政手続きの準備
技能実習の受け入れには以下の申請が必要です。
■主な手続き
技能実習計画の認定申請(OTIT)
在留資格「技能実習」の申請(入管)
労働条件通知書の作成
雇用保険・社会保険・労働保険の加入手続き
実習実施者届出
監理団体がサポートするため、企業側は必要な書類を揃えることが重要です。
費用の把握と受け入れ計画の作成
技能実習には費用が発生します。
企業側は事前に総額を把握し、損益計画をつくる必要があります。
■主な費用
各種申請費用
監理団体手数料
住居関連費
来日時の渡航費・保険
月給・法定福利費
「安い外国人労働力」と誤解する企業もありますが、
適正コストをかけてこそ定着率が上がります。
育成就労制度への移行に向けた最新動向
2027年に施行予定の「育成就労制度」は、技能実習に代わる新制度です。
■主な違い(現時点の政府方針)
実習ではなく「育成」(労働)に重点
同一企業でのキャリアアップが前提
転籍要件が緩和(一定条件)
産業横断的に柔軟な制度設計
マッチングの適正化(受け入れ審査強化)
これから受け入れを始める企業は、育成就労制度に対応できる仕組み作りが必須となります。
まとめ
技能実習の成功は「準備」で決まる
技能実習は、
- 書類
- 社内体制
- 教育
- 生活支援
がそろって初めて運用が成功します。
準備が整っていない企業ほど、「辞めてしまった」「失踪した」「コミュニケーションが難しい」といったトラブルが発生します。
逆に、しっかり準備した企業は定着率が高く、戦力として育つ成功例が多い制度です。