技能実習制度は、日本で働きながら技能を習得して母国へ持ち帰ることを目的とした人材受け入れ制度です。しかし、ニュースやSNSでも議論の対象となり、関心の高いテーマでもあります。
この記事では「技能実習制度とは」「仕組みはどうなっている?」「問題点は?」「特定技能との違いは?」といった疑問を初心者にもわかりやすく、かつ専門性を損なわない形でまとめています。
初めて制度を調べる方から、事業者・管理者まで役立つ内容です。
もくじ
技能実習制度とは?
国際貢献を目的とした人材育成制度
技能実習制度(Technical Intern Training Program)とは、発展途上国の人材が日本の企業で働きながら技能・技術を学び、帰国後に母国の産業発展に役立てることを目的とした制度です。
■制度の根本目的
国際貢献
人材育成
技能移転
母国の産業発展を支援する
単純労働を補うための制度ではなく、「学ぶ」ことが主目的とされています。
技能実習制度が作られた背景
技能実習制度は1993年に創設され、2010年に法制度が整備され大幅に拡充されました。
背景には以下があります。
日本企業の高い技能・技術をアジア諸国に移転する国際協力政策
国際社会における日本の役割(技術協力・人材育成)
産業の国際化による人材交流の促進
若年層減少に伴う人手不足への企業側のニーズ
表向きは「国際貢献」が目的ですが、現在は産業の人材確保にも一定の役割を果たしているのが実情です。
技能実習制度の仕組み(制度の構造)
技能実習制度は、以下の3つの主体で構成されます。
① 監理団体(組合・協同組合)
技能実習生を受け入れ企業へ「監理」する団体
生活支援、法令違反の防止、巡回指導などを実施
中間に入り受け入れ企業の負担を軽減
② 受け入れ企業(実習実施者)
技能実習生に実際の技能を教える企業
適正な労働条件・安全衛生の確保が義務
③ 技能実習生(外国人)
日本で技能を学ぶために来日
労働者であると同時に「技能を習得する学習者」
この3者が制度を構成し、国(出入国在留管理庁)・外国人技能実習機構(OTIT)が監督します。
技能実習の区分(1号・2号・3号)
技能実習はレベルによって3段階に分かれています。
● 技能実習1号(1年目)
入国後1年間
基礎的技能の習得
日本語研修などを含む
● 技能実習2号(2〜3年目)
一定の技能試験(基礎級)に合格する必要あり
より実践的な技能を学ぶ段階
● 技能実習3号(4〜5年目)
優良な監理団体・実施者のみ受け入れ可
より高度な技能修得が目的
最長5年間日本で技能習得が可能です。
技能実習制度の対象業種(84職種158作業)
技能実習は多くの産業で実施されており(2024年時点)、代表的な業種は以下です。
介護
製造業(機械、金属、食品加工など)
農業
漁業
建設業
自動車整備
繊維・服飾
建築板金
印刷
宿泊業(限定的)
生産現場の中核を担う業界が中心で、日本のインフラや地域産業を支えています。
技能実習制度と特定技能の違い
検索ユーザーの関心が高いポイントです。
| 項目 | 技能実習 | 特定技能 |
|---|---|---|
| 主目的 | 国際貢献・技能移転 | 労働力の確保 |
| 在留期間 | 最長5年 | 5年(特定技能1号)・長期可能(2号) |
| 対象者 | “学ぶために来日” | “働くために来日” |
| 試験 | 技能試験が必要 | 技能試験+日本語試験 |
| 業種 | 84職種と広い | 12業種に限定(建設・介護・外食など) |
| 企業の自由度 | 低い(制度が厳格) | 高い |
近年は技能実習 → 特定技能への移行も増えています。
受け入れ企業の要件と導入の流れ
■ 企業が満たすべき主な要件
技能指導が可能な体制(技能指導員の配置)
適正な労働条件の確保
実習計画の認定
受け入れ人数枠の遵守
外国人技能実習機構(OTIT)への定期報告
■ 受け入れ手続きの流れ
監理団体と契約
受け入れ人数や職種の決定
実習計画の作成
在留資格(技能実習)許可申請
入国手続き
配属後の技能指導
定期的な評価・試験
必要に応じ2号・3号へ移行
手続きは複雑で、監理団体のサポートが欠かせません。
技能実習生が行う仕事
業種により異なりますが、例として下記があります。
工場ライン作業
野菜の栽培・収穫
魚の加工
溶接・旋盤加工
介護業務のサポート
建設現場の補助作業
自動車整備(点検・交換など)
現場では日本人スタッフと同じ作業を行うことも多く、一定の技能レベルが求められます。
技能実習制度のメリット
■ 受け入れ企業のメリット
技能を教えることで生産性向上につながる
5年間の安定した雇用が確保できる
海外展開する企業にとって人材戦略に有利
職場の国際化、社内の活性化
■ 技能実習生のメリット
日本の技能を学び、母国の就職に有利
日本語力の向上
日本での収入で生活向上・家族支援が可能
技能実習制度の問題点・課題
ニュースやSGEで取り上げられやすい部分でもあります。
企業による不適正な労働管理
低賃金問題
長時間労働・安全配慮不足
実習生の失踪
監理団体の監督不足
“労働力確保が主目的になっている”という指摘
これらの課題を受け、政府は制度の抜本見直しを進めています。
技能実習に代わる新制度「育成就労制度」
2024年、日本政府は技能実習制度を廃止し、新しい制度「育成就労制度」へ移行する方針を公表しました。
■ 育成就労制度のポイント
目的:人材育成と労働力確保の両立
職場間・企業間の「転籍」を一定条件で解禁
日本語教育の強化
実習生の権利保護の強化
特定技能への移行がより明確に
制度は段階的にスタート予定で、技能実習制度は今後数年で大きく変わる見込みです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 技能実習生は日本で転職できますか?
基本は不可。ただし新制度では一定条件で認められる方向。
Q2. 技能実習生とアルバイトの違いは?
目的がまったく異なる。技能実習は“学ぶ”、アルバイトは“働く”。
Q3. 技能実習生は最低賃金が適用されますか?
はい。日本人と同じ最低賃金以上の給与が適用されます。
Q4. 技能実習から特定技能へ移行できますか?
可能。技能実習2号修了者は技能試験の一部免除があり移行しやすい。
Q5. 採用にはどれくらい時間がかかる?
一般的には3〜6ヶ月。国籍・手続き状況により変動。
まとめ
技能実習制度は「国際貢献」と「人材育成」のための仕組み
技能実習制度は、単なる外国人労働者受け入れではなく、技能を学び母国へ還元することを目的とした国際協力制度です。一方で、課題も多く、2024年以降は「育成就労制度」へと再構築が進んでいます。
制度を正しく理解し、適切な環境を整えることで、企業と実習生の双方にとって有益な関係を築くことができます。