外国人材の受け入れにおいて、「トラブル」や「失踪」は企業・監理団体にとって大きなリスクです。
人材不足を補うために外国人を雇用したにもかかわらず、トラブルが発生すると生産ラインが止まったり、行政指導に発展したり、制度上の評価が下がるなど、事業に多大な影響を与えます。
とくに技能実習制度では、毎年一定数の失踪が問題視されており、2027年から導入予定の「育成就労制度」では、こうした問題の再発防止が重要な目的のひとつとされています。
このページでは、外国人材の受け入れに関わる企業や監理団体に向けて、「なぜトラブルが起きるのか」「失踪はどう防げるのか」「企業は何を準備すべきか」を、実務ベースでわかりやすく解説します。
外国人材が安心して働き続けられる環境づくりは、トラブル防止・失踪対策の最も効果的な手段です。
正しい知識を身につけ、企業のリスクを最小限に抑えていきましょう。
もくじ
外国人材のトラブル・失踪はなぜ起きるのか(原因と背景)
収入への不満(賃金・残業代の未払い)
最低賃金ぎりぎりの給与
残業代が適正に支払われない
他企業の外国人と比較して不満が発生
賃金トラブルは失踪理由の上位に位置します。
企業の無自覚な法令違反が大きな火種となるため、労務管理の見直しは必須です。
コミュニケーション不足・職場環境のミスマッチ
日本語がわからず指示が理解できない
パワハラ・暴言・孤立
文化の違いから誤解が生じる
日本語教育不足やコミュニケーション問題も、退職・失踪につながる大きな要因です。
生活環境の問題(寮・地域との関係)
家賃が高すぎる、劣悪な住環境
生活ルールのすれ違い
相談相手がいない孤独感
特に地方企業では生活環境のサポートが不十分なことでトラブルが発生しやすくなります。
監理体制の不備・支援不足
監理団体・支援機関が機能していない
日本語学習の機会がない
相談窓口がない
支援体制が弱い場合、実習生や特定技能人材は問題を抱えても相談できず、結果として失踪に至るケースがあります。
トラブル・失踪対策として企業が行うべき「事前準備」
正確な業務説明とミスマッチ防止
採用前に以下を明確に伝えることで、入社後のギャップを減らせます。
業務内容(専門用語なしで説明)
給与・手当・残業の実態
寮費・天引きの詳細
日本語レベルの目安
勤務地・生活環境
ミスマッチはトラブルの最大原因であるため、採用段階の透明性が重要です。
労働条件の適正化(特に賃金)
最低賃金以上の設定
時間外労働の割増賃金の支払い
寮費・水光熱の適正額
無料労働の排除(着替え時間・準備時間など)
コンプライアンスの遵守は企業の信用そのものです。
日本語教育とOJTの整備
日本語学習の時間・環境の提供
やさしい日本語での説明
初期のOJT担当者を明確にする
日本語能力が低いほど、誤解が生まれやすく、事故・トラブルのリスクが増加します。
生活支援体制の整備
病院・銀行・携帯契約のサポート
生活ルールの説明書を多言語で配布
地域コミュニティとのつながり支援
生活面のサポートが手厚い企業ほど、外国人材の定着率が高くなります。
トラブル発生時の実務対応(企業がとるべき行動)
早期発見のための定期面談
最低でも月1回は以下を確認:
業務の悩み
日本語の理解度
寮でのトラブル
心身の状態
問題を早期に発見できれば失踪の多くは防げます。
トラブルが発生した場合の適切な対応
事実確認を迅速に行う
本人の意見を多言語で聞く
必要に応じて監理団体・支援機関が介入
第三者(通訳)を交えて解決
企業の非がある場合は是正・改善
トラブルは「早期・客観的・丁寧な対応」が鉄則です。
失踪の兆候を見逃さない
以下は失踪の典型的な予兆です。
無断欠勤
急な荷物整理
同国出身者との密な連絡
SNSでの転職情報への接触
兆候が見えた段階で、丁寧な面談が必要です。
失踪してしまった場合の対応(法令に基づく手続き)
まず行うべき初動対応
寮・職場の状況確認
監理団体・支援機関へ連絡
警察への捜索願提出
入管への報告
対応が遅れると企業責任を問われる可能性が高まります。
企業が受けるリスク
行政指導・許可取消しの可能性
新規受け入れ停止
実習計画の認定取り消し
労基署による是正勧告
社会的信用の低下
適切な対策をしていない場合、事業継続に影響するリスクが発生します。
育成就労制度で強化される「トラブル・失踪対策」
2027年に導入される予定の育成就労制度では、以下が強化される見込みです。
転籍ルールの明確化
労働者が正当な理由で移籍できる仕組み
不当待遇企業への依存を防止
賃金・待遇の厳格化
評価制度の導入
支援体制の品質管理
監理団体(協同組合)の監督強化
悪質団体の排除
生活支援の義務化
言語支援・相談支援の強化
制度改正の本質は「トラブルや失踪を減らす」ことにあります。
まとめ
予防こそ最大の失踪対策
外国人材のトラブル・失踪は「突然起きるもの」ではなく、必ず前兆があります。
そして、その前兆の多くは次の4つに集約できます。
コミュニケーション不足
賃金や待遇への不満
生活環境の不備
支援不足
企業・監理団体・支援機関が一体となり、「働きやすい環境」「相談しやすい環境」を整えることで、トラブルや失踪は大幅に減らすことができます。
外国人材が安心して働き、日本企業が持続的に雇用できる環境づくりのため、今すぐ実践できる対策から取り組んでいきましょう。